汚染、夏、自宅にて。

甘いものが好きで辛いものが苦手です

人類滅亡・世界征服・新たな科学文明の構築

 

 

恐山、いや、品田先生の『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』を読んだ。

 

反出生主義とは、簡単に言うと「人間は存在するべきでない」という考えで、「人間は生まれないほうが良かった」「今存在する人間は、新しい人間を産むべきでない」という考えのことだ。

 

「出産して新たな人間をこの世に作り出すのは、不幸を感じる存在を新たに作り出すのと同義だ。子供は人生でいくつもの不幸を経験するが、親が子供を作らなければ、その不幸を経験せずに済んだ。たしかに親は子供を持って人生で退屈しなくなるかもしれないが、自分の暇つぶしのために子供に不幸を感じさせるのは、道徳的に悪いことではないのか?」

 

のような意見をはじめとして、反出生主義者は、「人間を出生させることは、道徳的に悪いことだ」と主張する。

 

 

 

ネットは誰でも意見を発信できる以上、「ちゃんとした反出生主義者」と、「反出生主義者?」が存在する。

 

Twitterでよく見るのは、自分が恵まれないことだけを理由にして反出生主義らしきものを説く「反出生主義者?」だ。

彼らは、たとえば「僕/私は特に秀でた能力もなく、勉強もできず、顔もよくない。家庭環境にも恵まれず、つらい人生を送ってきた。死ぬのも辛いから嫌だ。僕/私ははじめから生まれてこないほうが幸せだったんだ。僕/私みたいな不幸な存在が生まれてこないように、人間は子供を産まないほうが良い。」みたいなことを言う。

 

つまり、「人間は子供を産むべきでない」という主張の根拠が「僕/私が不幸だから」という一点だけなのだ。

たしかに出生はガチャみたいなもので、一定確率で「秀でた能力もなく、勉強もできず、顔も良くなく、家庭環境にも恵まれない」人間としての人生がはじまる。そして、「いろいろな分野に秀でていて、勉強も得意で、顔も良く、家庭環境も良い」人間としての人生がはじまる可能性もある。

このガチャのような要素は反出生主義においても考えられるべき要素のひとつなのだが、それに失敗したことだけを理由にするのは、まともな反出生主義ではない。

 

おそらく、もし彼らが出生時のガチャで良い性質をもつ人生を引けていたら「人間は産まれるべきではない」なんてことは言わないだろう。それが違うのだ。

反出生主義を説くなら、自分の現状は切り離して、「それはそれとして人間が子供を産むのは道徳的に悪いことだから、産むべきでない」と言うべきだ。

 

もっとひどくなると、「赤ちゃんはキモくて全く可愛くないから、見ていて不快だ。人間は子供を産むな。」みたいなことを言っている人もいる。

他にも、異性に相手にされない非モテが、自分が子供を作ることができなさそうなのを正当化するために、「人間は子供を産むべきでない」と主張しているのも見たことがある。

 

 

 

以上のような「反出生主義者?」を見て「反出生主義は持たざる人間の嘆きだ」と思わないでほしい。ちゃんとした反出生主義は、聞いていてもっと面白い。

 

反出生主義は、その内容を聞けば聞くほど「人間を産むことは道徳的に悪いことだ」という意見に反論できなくなる。

たとえば、

「たしかに子供を産むのは、その子が不幸を感じる状態にすることだけど、それは幸福にも同じことが言えるよね?子供は生まれなければ幸福になれないんだから。」

「子供を産むのは人間の本能なのだから、それを否定することはできない。」

「生まれた人間が人生で感じる幸福の総量が、不幸の総量よりも大きくなるようにすればいいんじゃないの?」

みたいなパッと思いつく反論については、探せば納得のいく説明が用意されている。同じように、何を反論しても、それに対する説明にはだいたい納得できてしまう。

 

この反論→説明→納得を繰り返しているうちに、人間が子供を産むのは本当に悪いことのような気がしてくる。しかし、「人間は子供を産むべきではない!」と声高に主張する気にはどうもなれない。何かしこりが残る。

 

恐山の『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』を読んで、このしこりが小さくなった。面白い本だった。

 

 

あと、さすが小説家なだけあって話の構成がよく練られていた。

恐山ってネットで毎日しょうもないことを言っているだけで、本当はすごい人なんじゃないかと思えてきた。

 

 

僕の思い違いだったのかもしれない。

 

 

 

思い違いだった。

 

 

 

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本棚に『ただしい人類滅亡計画』『世界征服マニュアル』『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』が並んだせいで、人類を滅亡させて新しい世界のKINGになろうとしている人みたいになってしまった。